■
中村先生に茶室、不言庵を建てていただいてから
もう三年になった。
青苔日厚自無塵
という
古人の句を偲ばせて
露地の苔は日に暑く、
雨の朝月の夕とりどりの趣を呈するようになった。
不言庵というからには
黙して、心気を養い、その道を楽しめとの
貴い教示と心がけて、
庵から声のもれないかぎりにおいて、
ただ教え子たちを相手として、
二度の春秋を◇迎し、この道の楽しみを
わかった。
しかるに、このごろになって
中村先生からその話を書くように
との仰せがあった。
筆硯にうとい自分にはこの興趣について書きこなしがたいので
一応ご辞退申し上げた。
しかし茶味という題◇までつけて頂いたので、
その仰せにそむくも◇にあらずと思いなおして筆をとった。
【興趣】きょうしゅ物事から感ぜられる(低俗でない)面白み。